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1)小説 アーカイブ

2008年02月04日

疾走 重松清著

「疾走」(上・下) 重松清著 角川文庫
話の要約は本の表紙裏に書かれたものを写します。
<<広大な干拓地と水平線が広がる町に暮らす中学生のシュウジは、寡黙な父と気弱な母、地元有数の進学校に通う兄の4人家族だった。教会に顔を出しながら陸上に励むシュウジ。が、町に一大リゾートの計画が持ち上がり、優秀だったはずの兄が犯した重大な犯罪をきっかけに、シュウジ一家はたちまち苦難の道へと追い込まれる、、、。15歳の少年が背負った苛烈な運命を描いた小説。>>

平穏無事な生活をしていても、家族の歯車が一つ外れたために次々と難題が連鎖し底なし沼に引きずり込まれるように崩壊していく家庭がある。
歯車が外れた時にすぐ原因をつきとめ歯車をもとの位置にはめ込めれば事件は起こらないのだけれど、外れる前から何らかの要因があり外れべくして外れることが多い。一度外れた歯車はそのまま暴走し壁にぶつかり木っ端微塵に砕ける。
歯車が外れ<疾走>し続ける少年はブレーキをかけたくてもかからない。そんな成り行きで例えば殺人を犯してしまった場合、誰が彼を咎める事が出来ようか。

崩壊のきっかけを作った兄シュウイチと翻弄されて疾走し続けるシュウジは聖書を手放さない。聖書の言葉と平行してドロドロした悪路を疾走する苦難の道。

私もシュウジに伴走しながら大変考えさせられた本でした。

2008年02月15日

釈迦

釈迦 瀬戸内寂聴著 新潮社
仏教の祖である釈迦(世尊)・ゴータマブッタの伝記小説である。

ブッダの生涯ずっと傍らに付き添った弟子アーナンダが80歳を過ぎた世尊の最後の遊行を共に歩きながら語り部となって話が進められる。
ルンビニでの誕生から入滅の地ヴェーサーリーまでの足跡が思い出として語られるなかで釈迦のことが分かるようになっている。

私は京都で育ちながら家がクリスチャンだったので仏教について無関心で数年前まで全く無知であった。
ネパールに関わるようになってルンビニを訪れてから急に仏教についての関心が高まり、最澄→空海→法然→道元→親鸞→良寛と次々伝記を読んだ。でも肝心の仏教の祖であるお釈迦様についてよく分からなかったのでこの本を手にした。

瀬戸内晴美・寂聴さんの本はちょっと苦手でこれまであまり読んだ事がなかったのですが、「釈迦」を読んでまず文章の美しい事に驚いた。そのためだと思う。仏陀の言葉がじんわりと心に響き心が洗われるような清々しさを感じた。

釈迦の教えでは女人は魔物であり避けるべきものだということから始まる。だから女には最初出家が許されなかった。それをアーナンダの説得で釈迦入滅間近になってから女の出家が認められるようになる。
驚いた事に初代の尼僧院の院長は仏陀の養母マハーパジャーパティで2代目は仏陀が捨てた妻ヤソーダラーなのである。
瀬戸内寂聴さんは出家されて30年以上にもなられますが、仏教における女性の位置づけについて何度も考えられたに違いないと思う。

この本は単なる偉人伝ではなく、ブッダの人間性に彼を取巻く女性の生き方を巧みに絡ませて書かれ、実は現代にも通じる<女性の生き方>がテーマとなっているのではないかと思った。

2008年04月12日

流星の絆

 
流星の絆 東野圭吾著 講談社
2年程前、福岡で幼い3人の子供と両親が乗った車が飲酒運転の車に追突され海に投げ出され3人の子供が亡くなった痛ましい事件がありました。
可哀相で涙なしでは読めないニュースでした。
その後飲酒運転に対する法律が強化されご両親は赤ちゃんにも恵まれ人生の再出発への希望が少しは持たれたかもと思っています。

もし逆に3人の幼子がのこされ両親が理不尽な殺され方をした場合、子供達の将来はどんな過酷な人生が待ち構えていることでしょう。

「流星の絆」は、幼い仲の良い3人の兄妹が両親に内緒で流星を見るために夜中に家を抜け出し帰って見ると両親が殺されていたという設定で話が始まります。
施設に収容された子供達は兄は弟と妹を守り弟と妹は兄を慕いながら成長します。そして成長した3人は殺人犯を見つけ出しチームプレーよろしく復讐するミステリー小説です。

意表をつく展開でぐいぐい読者を引き込みます。若者の深層心理が分かりやすくすっきり書かれていて後味のいい小説でした。

2008年04月23日

白夜行

白夜行 東野圭吾著  集英社
またまた東野圭吾のミステリーを図書館で見つけて借りてしまった。

これも「流星の絆」と同じく2人の子供(小学6年)の復讐劇である。
この本は帯に書いてあるように<二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪。・・・息詰まる精緻な構成と、叙事詩的スケール。心を失った人間の悲劇を描く、傑作ミステリー長編!>。
そのままずばりです。

時代は1973年から1990年。私の息子達が生まれて大学生になった頃まで。
私達のような幸せ家族の影にもこういう訳有り家族も生活していたとはその頃の私は情けないことに気付かなかった。

高度成長の始まりから終焉にかけての話でコンピューターが使われ始めたと同時に悪の先取りというか企業秘密の漏洩がからみとても面白い。
最近のミステリーにはあまり出なくなったタバコの煙をゆるがす刑事。携帯電話はまだなくもっぱら電話。

超過酷な体験を強いられた子ども達からの復讐劇なんだけれど<<許し>>という姿がないのが気になる。
それは私のように復讐にとらわれるような体験をしていない者の気楽な考えなのかもしれない。
それに許しが出てくるとミステリーの面白さも半減するだろう。

2008年05月02日

愛のひだりがわ

「愛のひだりがわ」筒井康隆著 岩波書店
日本の、否、地球の未来は暗いという思いが強くなってきています。
この本の時代背景は何年か後の荒廃しきった日本です。
荒廃の有様はとてもリアルに描かれてあります。警察は役に立たずみな生きるために自警団を作り銃で身を守るような世の中です。
ご多分に漏れず不幸を背負った小学生の愛ちゃんが母に死なれ孤児になり何年か前に母娘を捨てていった父を求めて一人で旅に出る物語です。
危険がいっぱいの旅だけれどいつも危機一髪で誰かに守られる愛ちゃん。
スリル満点、怖いけれど夢と救いのあるいいお話で感動しました。
小学生の孫にも是非読ませたいなと思ったのですが、気が付くとちゃんと漢字にカナがうってあります。
児童書だったのですね。
こういうのが大人のための童話というのでしょうか。
お勧めです。

2008年06月04日

受験のシンデレラ

「受験のシンデレラ」 和田秀樹 著 小学館文庫
主人公の卒業した学校が、ウチの近所にある全国1の東大進学校「灘校」で、映画化もされ話題になっているこの本を友だちが面白かったというので読んでみた。

主人公五十嵐は灘校から現役東大の医学部に進学したのだが医者にはならずに東大進学塾を立ち上げ「受験界のカリスマ」と呼ばれ莫大な富も名声も手にしていた。しかし親友の医師からガンで余命1年半と宣告を受ける。
そんな時高校を中退し学力もなく荒んだ生活をしている少女に偶然出会うことになり、残りの人生で彼のあらゆるテクニックを駆使して彼女を東京大学に合格させようと決心する。
そして2年。見事少女を東大合格に導き命を終える。

この本は、プロ野球選手を目指す「巨人の星」のような根性物、又は究極のゴルフ上達方法というようなハウツーものと同列のものだと思った。

この本では目指すものがプロのスポーツ選手ではなく東大合格であるのですが、目的達成の為ののめり込みようや技の取得方法はスポーツのトレーニングも受験勉強も同じなんですね。
東大を目指し進学校(塾)で勉強勉強に明け暮れるのと、プロサッカー選手を目指しスポーツ推進校とかでサッカーに明け暮れて過ごすのとなんら変わりがないんだと気付かされた。

孫にはプロの選手になるより楽しくスポーツをさせたいと思うし、東大でなくても身の丈に合った大学が良いと思うし、それは世間一般の人の考えと思うのですが、この本がベストセラーになった理由は何なんでしょうか?

目的達成の過程で学ぶべき精神的葛藤のようなものもありますが、目的が私にはあまり縁がないので役に立たない本でした。

2008年06月09日

蛙男

「蛙男」  清水義範 著  幻冬舎
清水義範さんのファンです。

彼の小説は、普段見落とされがちなもの無視されるもの不運な人のこと等に焦点をあてて、読者を驚かせ楽しませるところが面白いのです。

この「蛙男」も私にはけっして思いもつかない発想で驚かされた。
私に見えているものは他人も同じように見えているとどうやって証明できる?
自分に見えるのに他人には見えないものがあるかもしれないと思いませんか?

主人公の滝井道典はある日鏡に映った自分の顔色が悪いのに気付く。
疲れがたまったかなと放っておくうちある日自分の手が緑色になり蛙の手のように変わってしまうのに気付く。
ずっとではない。時々である。
その後その変化が体中に広がるのだけれど他人からみれば何の変化もないらしい。
それがどんどんエスカレートしていって、、、。
という話です。結末は?怖い、、。

「現実に起こりうるわ」と思わされ引き込まれるのだけれど、やっぱり現実的には起こらないだろうと「ふ~っ!」と息をつかせるすごく面白いお話です。

2008年08月01日

密やかな結晶

密やかな結晶  小川洋子著 講談社文庫
舞台は、例えばイギリスの郊外の森林や田園や古い街並みをしっとり感じさせるような、ある架空の島での出来事です。

そこの島では、秘密警察によって、ある日突然強制的に物の存在が失われ、人々の頭からもその記憶が失われて人々の頭の中はその部分が空白になっていく。
島からなくなっていくものは小鳥であったりリボンであったりバラの花であったり小さいけれど掛け替えのないものである。
失われるものは、その日の朝突然、秘密警察から島の住人に告げられ、人々はそれを家から持ち出してきて川に捨てる。秘密警察はそのものを隠している可能性のある家にどかどか土足で踏み込み家中からそれに関わるものを押収しゴミ袋にいれ持ち去る。
剥奪された人々は見る見るうちに捨てられたものの記憶を失ってしまう。
中には記憶を失わない人もいてその場合は記憶狩りの秘密警察に捕らわれどこかに連行されてしまう。
島では物がなくなる速度と作り出される速度の差が広がり島からは活気が失われてゆく。
さて結末は、、、、、?

著者は中学生の時、ゲシュタポに連行され殺されたアンネ・フランクの日記を読んで感銘を受け小説家になるきっかけになったと、どこかで読んだことがあります。

地球に生きる(存在する)ものが私欲にかられた権力でもって強制的に抹殺される恐ろしさを、著者は鎮めた口調でファンタジックに記述する。

しみじみ考えさせられる良書でした。


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