密やかな結晶
密やかな結晶 小川洋子著 講談社文庫
舞台は、例えばイギリスの郊外の森林や田園や古い街並みをしっとり感じさせるような、ある架空の島での出来事です。
そこの島では、秘密警察によって、ある日突然強制的に物の存在が失われ、人々の頭からもその記憶が失われて人々の頭の中はその部分が空白になっていく。
島からなくなっていくものは小鳥であったりリボンであったりバラの花であったり小さいけれど掛け替えのないものである。
失われるものは、その日の朝突然、秘密警察から島の住人に告げられ、人々はそれを家から持ち出してきて川に捨てる。秘密警察はそのものを隠している可能性のある家にどかどか土足で踏み込み家中からそれに関わるものを押収しゴミ袋にいれ持ち去る。
剥奪された人々は見る見るうちに捨てられたものの記憶を失ってしまう。
中には記憶を失わない人もいてその場合は記憶狩りの秘密警察に捕らわれどこかに連行されてしまう。
島では物がなくなる速度と作り出される速度の差が広がり島からは活気が失われてゆく。
さて結末は、、、、、?
著者は中学生の時、ゲシュタポに連行され殺されたアンネ・フランクの日記を読んで感銘を受け小説家になるきっかけになったと、どこかで読んだことがあります。
地球に生きる(存在する)ものが私欲にかられた権力でもって強制的に抹殺される恐ろしさを、著者は鎮めた口調でファンタジックに記述する。
しみじみ考えさせられる良書でした。