2008年07月22日

黄いろいボール


「こわがっているのはだれ?」 フィリッパ・ピアス著 高杉一郎訳
またピアスです。
「黄いろいボール」は「こわがっているのはだれ?」 の短編集の中の一つです。
この短編集は幽霊が主題になっています。
「黄色いボール」に出てくるのは犬の幽霊です。
コンとリジ-という幼い姉弟が、いつも遊んでいるカエデの古木の洞から、ある日偶然に黄色いボールを見つけます。そのボールで遊んでいると、何かサ~と目の前を横切る影に二人は気付きます。それは犬の幽霊でした。
きっとその犬は、二人が住むずっと前に、いつもその黄色いボールを追いかけて遊んでいたのでしょう。

不思議で怖いお話だけれど、その世界には死んでも生き続ける魂が浮遊し、大ヒットした「千の風にのって」の歌を思い出させる、何かしみじみ考えさせられた短編集でした。

訳者のあとがきによると、ピアスは「私は、スーパーナチュラルの話を書くのが好きです。それは読む人の、恐怖心を書き立てるような話と、スーパーナチュラルの手法を使って、現実の奥の深みにある実体に触れていく話があります。私はスーパーナチュラルの手法を使わない限り、物語で人間のかかわりあいを深く探ることは出来ないと幾たびとなく考えてきました。」と話しておられたそうです。

今私は木々に囲まれた蓼科の古びた山荘で生活しているのですが、今日もテラスで本を読んでいると、苔むした岩の後ろから4年前に死んだ愛犬が顔を出してじっとこちらを見ているような気がして、ふ~と懐かしさがこみ上げてきました。それで夏休みにやってくる小さな孫達のために下草を刈り、木登りやハンモックで楽しめるように山荘の周りを整備したのでした。朽ち果てそうになっている犬小屋はそのままにして。

2008年07月11日

ピアス短編集

ピアス短編集:まよなかのパーティ  フィリッパ・ピアス著 猪熊葉子訳

元小学校教諭Yさんが体調を崩してしまい、何年ぶりかで読んだフィリッパ・ピアスの本で癒されたと聞いたので早速図書館で「ピアス短編集」を見つけて読んだ。

フィリッパ・ピアスは児童書作家として有名だそうだけれど私は知らなかった。1985年に出版された本だけれど今作者が存命なのかどうかも知らない。
いずれも作者が育ったイギリスのケンブリッジにほどちかいグレート・シェルフォードという所の田園での生活が舞台で、日々冒険の中から成長していく子供を中心に分別ある大人を脇役にして展開される。

8つの短編が集められているが私は中でも「川のおくりもの」が面白かった。
10歳ぐらいの男の子ダンとロンドンから遊びにきた7歳ぐらいのローリーという従兄弟の話である。

生物好きのローリーが来るといつも遊んであげる小川で今回も二人で遊んでいると、珍しいイシガイをダンが見つけた。珍しい生き物を見つけた時の感動や、所有権にまつわる可愛らしい取引、年長者ダンの気持ち、弟分の気持ちなどがごく普通に淡々とえがかれている。

ローリーはいつも、川で見つけた川えびなどをジャムのビンに入れてロンドンに持って帰り、水槽で飼っている。ダンは見つけたイシガイをローリーにあげるとは言ったものの惜しくなっている。
そのへんの子供の心理がとっても可愛らしくかかれていて感動しました。

この本は児童書の分野だけれど子育てに関わる大人が読むほうが面白いのではないかな。
10歳の孫達とその親に贈って反応を見てみよう。

この舞台になっているグレート・シェルフォードは現在も豊かな田園が広がっているのだろうか?
昔の子供たちが自然の中から学び成長していったように、今の子供たちが豊かに育っていくための舞台はどこにあるのかしら?


2008年07月03日

クアトロ・ラガッツィ

「クアトロ・ラガッツィ」 若桑みどり著 集英社文庫(上下)
信長の時代にローマを目指した「天正少年使節」についてはずっと関心があった。
新聞でこの本が、<昨秋突然逝った著者の大佛次郎賞を受賞した懇親の作であり、天正少年使節にまつわる壮大な叙述>と紹介されていたのですぐ飛びついた。

文庫本とはいえ分厚い上下巻で、その上肝心の4少年について各個人の記述は少ない。しかし当時の東西世界の時代的背景・西洋文明と日本文化と権力者の精神的葛藤を膨大な資料を読み解き示しながら4少年の生き様を読者の心にくっきりと浮かび上がらせる技法は見事で凄い本です。

日本の戦国時代末期と帝国化していく世界とがどのような形で邂逅していくのかがリアルに分かり私にとって新しい知識の発見に胸をドキドキさせられ読み進めるのが惜しくなるような感動の本でした。

ただ宣教師の名前や日本の大名の名前とその血縁関係者の名前が漢字の読み方が難しかったりしてややこしい。日本人でも洗礼名で書かれていたりするとそれもややこしい。
だから紙に登場人物と年代を書きながら読みました。


2008年06月26日

走ることについて語るときに僕のかたること

「走ることについて語るときに僕のかたること」村上春樹著 文芸春秋社
村上春樹氏の作風から天才的(物語が身体から湧き出るように出るのを文章にまとめていく)作家かと思っていたのだけれど、彼のエッセイなどを読むと小説家という職業人であるらしいことが分かってきた。

彼が小説家になろうと決心された時からずっとマラソンを続けてこられたとはこの本を読むまで知らなかった。
この本は<小説を書く>という頭をハードに使う仕事の癒しのためにマラソンを続けてこられた記録である。

疲れを癒すには、身体をリラックスさせて休息するのが一番と思っていたが、仕事と違うジャンルのものに没頭することも疲れをとる手段なんだと納得させられた。

マラソンのようなハードな趣味に没頭させるほど小説を書くことは彼にとってハードな仕事なのだとも思わされて妙に感心させられてしまった本でした。


2008年06月09日

蛙男

「蛙男」  清水義範 著  幻冬舎
清水義範さんのファンです。

彼の小説は、普段見落とされがちなもの無視されるもの不運な人のこと等に焦点をあてて、読者を驚かせ楽しませるところが面白いのです。

この「蛙男」も私にはけっして思いもつかない発想で驚かされた。
私に見えているものは他人も同じように見えているとどうやって証明できる?
自分に見えるのに他人には見えないものがあるかもしれないと思いませんか?

主人公の滝井道典はある日鏡に映った自分の顔色が悪いのに気付く。
疲れがたまったかなと放っておくうちある日自分の手が緑色になり蛙の手のように変わってしまうのに気付く。
ずっとではない。時々である。
その後その変化が体中に広がるのだけれど他人からみれば何の変化もないらしい。
それがどんどんエスカレートしていって、、、。
という話です。結末は?怖い、、。

「現実に起こりうるわ」と思わされ引き込まれるのだけれど、やっぱり現実的には起こらないだろうと「ふ~っ!」と息をつかせるすごく面白いお話です。

2008年06月04日

受験のシンデレラ

「受験のシンデレラ」 和田秀樹 著 小学館文庫
主人公の卒業した学校が、ウチの近所にある全国1の東大進学校「灘校」で、映画化もされ話題になっているこの本を友だちが面白かったというので読んでみた。

主人公五十嵐は灘校から現役東大の医学部に進学したのだが医者にはならずに東大進学塾を立ち上げ「受験界のカリスマ」と呼ばれ莫大な富も名声も手にしていた。しかし親友の医師からガンで余命1年半と宣告を受ける。
そんな時高校を中退し学力もなく荒んだ生活をしている少女に偶然出会うことになり、残りの人生で彼のあらゆるテクニックを駆使して彼女を東京大学に合格させようと決心する。
そして2年。見事少女を東大合格に導き命を終える。

この本は、プロ野球選手を目指す「巨人の星」のような根性物、又は究極のゴルフ上達方法というようなハウツーものと同列のものだと思った。

この本では目指すものがプロのスポーツ選手ではなく東大合格であるのですが、目的達成の為ののめり込みようや技の取得方法はスポーツのトレーニングも受験勉強も同じなんですね。
東大を目指し進学校(塾)で勉強勉強に明け暮れるのと、プロサッカー選手を目指しスポーツ推進校とかでサッカーに明け暮れて過ごすのとなんら変わりがないんだと気付かされた。

孫にはプロの選手になるより楽しくスポーツをさせたいと思うし、東大でなくても身の丈に合った大学が良いと思うし、それは世間一般の人の考えと思うのですが、この本がベストセラーになった理由は何なんでしょうか?

目的達成の過程で学ぶべき精神的葛藤のようなものもありますが、目的が私にはあまり縁がないので役に立たない本でした。

2008年05月16日

誇りを持って戦争から逃げろ!

「誇りを持って戦争から逃げろ!」 中山治著 ちくま新書
近未来には戦争に巻き込まれるだろう日本について真剣に考えさせられた本でした。

報道で知らされる世界情勢を見聞きするたび、又、ネパールから戻るたび、「日本は平和でいいわ~!」といつも思ってきました。
それは日本国憲法9条の戦争放棄の取り決めがあるからこそ今の平和があるということがこの本を読んでよく分かりました。
そのことは私も絶対その通りだと思うし断固改正には反対の立場です。
しかし著者も言っておられるように「断固として改正反対!」と叫んでも愚かな政治家によって恐らく憲法は近未来に改正されると私も思います。そして日本はアメリカに利用されて戦争に巻き込まれ多くの若者が他国で傭兵として戦わされアメリカのために命を落とすでしょう。

では「戦争に荷担するのはいやだ」と思っている者はどうすればいいのか?
著者は<逃げること>だけが我々に残されている最善の誇り高き解決策だと述べておられます。
「サウンド オブ ミュージック」のトラップ一家のようにとおっしゃいますが、そんなん無理ですわ。
日本は島国だし、、。

じりじりと政治的にも経済的にも非常に危険な時代を迎えるのは誰の目から見ても明らかです。
息子達には権力者にいいように利用されることなく、この時代を生きぬいてもらわないと心配なので、読ませなくちゃと思い2冊取り寄せました。

日本中の人々に読んでもらいたいと思った本でした。

2008年05月05日

深泥丘奇談

「深泥丘奇談」  綾辻行人著 メディアファクトリー発行
新聞で紹介されたのを見てすぐ買いました。
京都に私が子どもの頃からよく知っている今でも独特の風情を残している深泥池(ミドロガイケ)というところがあり、その近辺で起こるシュールなミステリーというのが面白そう、、と思ったからです。
帯には、<作家が住まう“奇妙な京都”を舞台に、せめぎあう日常と超常、くりかえす怪異と忘却、、、。
読む者にも奇妙な眩うん感をもたさずにはおられない、たぐい稀なる怪談絵巻。>とあります。
まず本の装丁が凝っていて素敵、イラストが何ともいえない雰囲気をかもし出す墨絵でしかも可愛い。
こわ~い話ではあるけれどユーモアがたっぷり。
深泥池が深泥丘。比叡山が紅叡山。五山の送り火の大文字山が人文字山。怪しい病院が舞台になっているが、私はあの辺に、今では差別用語で口に出来ないが<気狂い病院>とヒソヒソ言っていた病院が昔あったことも知っている。
つまり京都のあの辺のことを知っている読者は倍は楽しめます。
それぞれ関連させながらの短編9編からなりますが、サムザムシという話が一番面白かった。
これから読む人のために内容は言いませんが虫歯のムシがヒント。
綾辻行人という作家を知らなかったけれどファンになりました。他の本も読んでみたい。

2008年05月02日

愛のひだりがわ

「愛のひだりがわ」筒井康隆著 岩波書店
日本の、否、地球の未来は暗いという思いが強くなってきています。
この本の時代背景は何年か後の荒廃しきった日本です。
荒廃の有様はとてもリアルに描かれてあります。警察は役に立たずみな生きるために自警団を作り銃で身を守るような世の中です。
ご多分に漏れず不幸を背負った小学生の愛ちゃんが母に死なれ孤児になり何年か前に母娘を捨てていった父を求めて一人で旅に出る物語です。
危険がいっぱいの旅だけれどいつも危機一髪で誰かに守られる愛ちゃん。
スリル満点、怖いけれど夢と救いのあるいいお話で感動しました。
小学生の孫にも是非読ませたいなと思ったのですが、気が付くとちゃんと漢字にカナがうってあります。
児童書だったのですね。
こういうのが大人のための童話というのでしょうか。
お勧めです。

2008年04月23日

白夜行

白夜行 東野圭吾著  集英社
またまた東野圭吾のミステリーを図書館で見つけて借りてしまった。

これも「流星の絆」と同じく2人の子供(小学6年)の復讐劇である。
この本は帯に書いてあるように<二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪。・・・息詰まる精緻な構成と、叙事詩的スケール。心を失った人間の悲劇を描く、傑作ミステリー長編!>。
そのままずばりです。

時代は1973年から1990年。私の息子達が生まれて大学生になった頃まで。
私達のような幸せ家族の影にもこういう訳有り家族も生活していたとはその頃の私は情けないことに気付かなかった。

高度成長の始まりから終焉にかけての話でコンピューターが使われ始めたと同時に悪の先取りというか企業秘密の漏洩がからみとても面白い。
最近のミステリーにはあまり出なくなったタバコの煙をゆるがす刑事。携帯電話はまだなくもっぱら電話。

超過酷な体験を強いられた子ども達からの復讐劇なんだけれど<<許し>>という姿がないのが気になる。
それは私のように復讐にとらわれるような体験をしていない者の気楽な考えなのかもしれない。
それに許しが出てくるとミステリーの面白さも半減するだろう。